■糖尿病予防のために私たちができること

「生活習慣病」である糖尿病の予防の為には一人ひとりが自分の適正体重を知り、それに向かって体重コントロールをする、過食や脂肪の過剰摂取に注意し、適正な食事をとること。また一日500歩でも1000歩でも意識して多く歩くようにするといったことが糖尿病を抑制するために必要となってきます。
糖尿病の誘因は過食、運動不足、肥満、ストレスが挙げられます。糖尿病の発病と進行の予防はこれらを改善すること、すなわちバランス良く「食べ」、「動き」、「くつろぐ」ことです。
とてもシンプルなことなのですが「言うは易く、行うは難し」なのです。


運動量と食事量がつり合ってること


緊張の度合いとリラックスの度合いがつりあってること
 糖尿病予防のための「食事指導」
糖尿病において食事療法が必要なわけは、糖尿病が食事と密接な関係にあるインスリンの不足や欠乏から起こる病気だからです。これを防ぐには、摂取する食べ物の量を制限し、一方で各種の栄養分も不足しないよう、食事のとり方を変えねばなりません。その人に合ったエネルギー量にすることと、栄養バランスのとれた食事に切り替えること、それが食事療法です。
 ■肥満を防ぐための食生活
糖尿病が強く疑われる人の52.7%が過去に肥満であったとされ、肥満と糖尿病の関係が明らかになっています。すなわち、糖尿病予防のためのひとつには肥満を防ぐことです。肥満を防ぐには、脂質の摂りかたが重要です。脂質の摂りすぎは糖尿病の合併症である動脈硬化の原因にもなります。脂質は一般に1日の総摂取エネルギーの25%ぐらいになる量をとることがよいとされています。成人の場合、1日の適量は以下に示すとおりです。

●日本人の脂質所容量の目安(エネルギー比25%)

20歳代

30歳代

40歳代

50歳代

60歳代

男 性

71g

63g

57g

54g

53g

女 性

56g

55g

54g

51g

49g
平均的な体重・身長で、普通程度の作業強度の人の場合で計算。軽い作業強度の人では、数値はこれより少なくなります。

脂質の摂取は、総量が多くなりすぎないことも大切ですが、その種類にも注意が必要です。植物油などからの脂質、肉類からの脂質、魚類からの脂質がほどよいバランスで摂れるように配慮します。さらに脂肪を構成している脂肪酸についての知識も必要です。脂肪の主成分である脂肪酸は、大きく飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、チーズ等)、多価不飽和脂肪酸(各種食用油、青魚等)、一価不飽和脂肪酸(オリーブ油)の3種類に分けられます。比率は、飽和脂肪酸(1)、多価不飽和脂肪酸(1〜1.5)、一価不飽和脂肪酸(1)ぐらいが良いとされています。
 ■糖尿病の食事療法
糖尿病学の進歩に伴い、食事療法に対する考え方は大きく変わってきています。昔の糖尿は病食は、ともかく尿糖を減らすことに全力が注がれ、尿糖の出やすい糖質を含む食事を極端に制限した食事が摂られたということです。現在では「腹7、8分目」でバランスのとれた栄養素の配分という健康食、長寿食が糖尿病食の主流となっています。
基本を守れば原則として食べてはいけないものはありません。また、この食事療法は糖尿病以外の人が生活習慣病を予防し長生きするための健康食として利用しても効果的です。
 ■食事療法の効果を高めるアドバイス
腹八分目でも満腹感を得るために、よく噛んでゆっくり食事を摂りましょう。
様々な食物(肉類、魚類、豆類、野菜、果実、乳製品ほか)をまんべんなく摂りましょう。
魚の油(EPA、DHA)は動脈硬化を防ぎます。
食物繊維は血糖の急速な上昇を防いでくれます。
間食のカロリーも忘れずに計算しましょう。
迷信や民間療法よりも自分の食事療法を信じましょう。
 ■外食の上手なとり方
糖尿病で食事療法をしている人も、外食・調理済み食品のお世話になることは多いでしょう。特に外で働いている人は、外食をせざるを得ないことが多く、外食を無視した食事療法はあまり現実的ではありません。
外食メニューの特徴は一般にカロリーが高いことがあげられます。これは糖尿病の人にとって大きな問題です。、そして、野菜が少なく糖質や脂質が中心の料理が多いのが特徴です。また、味付けが濃いことや、メニューを見てもどんな食材が使われているのかわかりにくいという難点もあります

●主な外食の注意点

焼魚定食
和風のメニューは食材の形がそのまま生かされて目安量を判断しやすく油も少な目で、外食ではお薦めのメニューです。

親子丼
店によってご飯の量に差がありますので、目安量に注意してください。

天ぷらそば
一般的に麺類は低カロリーで栄養は糖質に偏り、タンパク質や脂質はほとんどとれません。また、汁は塩分が多いので注意が必要です。

にぎり寿司
寿司は砂糖や塩が意外に多く使われています。

ハンバーグライス
洋風メニューは肉類の脂や味付けに用いるバターなどで油が多くなりがちです

五目ラーメン
中華料理は油が多くカロリーは大変高くなっています。

ハンバーガー類
ファーストフードのメニューは高カロリーで栄養バランスが悪くあまりお薦めできません
 糖尿病のための運動指導

運動は高血糖を低下させると同時に、肥満の解消に大きな効果があります。また、糖尿病患者がかかりやすい血管合併症などの予防や進行を抑える効果もあります。さらに、体を動かすのが楽になり、日常生活も快適になります。

 ■運動の効果
血糖を下げる
運動時のエネルギー源として、血中のグルコース(血糖)を使うため、運動すると血糖が下がり、その効果は翌日まで持続します。また、定期的に続けることで、筋肉や脂肪など各組織の細胞がグルコースや脂肪をエネルギーに変える能力も一段と高まるため、その分インスリン量が節約でき、膵臓の負担を軽減できます。

体重が減少する
運動時のエネルギー源として、遊離脂肪酸(FFA)も使うので、運動を定期的に続けると、体重を減らすことが出来ます。また、血中の中性脂肪や動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)を減らし、かわって動脈硬化を予防する善玉コレステロール(HDL)が増えてきます。

筋肉細胞のインスリンに対する感受性が高まり、血糖コントロールが良好になる。

血圧が低下する。

血液の循環がよくなる。

脂肪を消費したり燃焼しやすい体質になり、動脈硬化の進行を防止する。

心臓や肺の機能を高めたり、脳・心臓血管の病気を予防改善する。

足腰が強くなり骨量減少や老化を予防する。

ストレスが解消され気分が晴れやかになる。

体力がついて体の動きが楽になり、日常生活が快適になる。
 ■効果的な運動の種類・方法
もっとも効果的な運動は、酸素を十分に取り入れて行う中程度のの強さの運動、いわゆる有酸素運動(エアロビクス)です。エアロビクスは「酸素とともに」という意味で、酸素を十分に取り込み、血糖や脂肪を効率よく燃焼させることを目的とした、リズミカルな全身運動です。具体的にはウォーキング、ゆっくりめのジョギング、サイクリング、水泳など、ある程度の強さを持続して行うものです。
運動療法ベスト10は、
1.速歩 2.散歩 3.体操 4.自転車 5.踏み台昇降 6.ジョギング 7.ゴルフ 8.縄跳び 9.水泳 10ソフトボールという調査結果もあります。

これらの運動を1日に15〜60分程度、食後1〜2時間以内に、週3〜5回するというのが効果的です。食後1〜2時間が最適というのは、血糖が最も高くなる時間帯だからです。運動の効果は翌日くらいまで持続するので、毎日続ける必要はなく、体長や天候の悪いときは休んだり、1日おきにしても結構です。
無理して毎日続けるより、長く続けることの方がはるかに重要です。
 ■運動をしてはいけない場合
糖尿病と診断された場合の運動量には制限があります。
運動は様々な治療効果を高めることが出来る反面、病状によって逆に高血糖や低血糖を引き起こす原因になったり、病状を増悪あせてしまう場合があります。合併症、特に進行性の網膜症、進行した腎症、自律神経障害がある場合には、運動がかえって症状を悪化させることがあるので、病態が安定するまで運動は勧められません。また1型糖尿病の人、糖尿病性以外の合併症のある人、血圧が著しく高かったり、心臓や肺の病気があったり、腰や膝の関節が悪い場合なども、運動内容に注意や制限が必要です。
 ストレスと糖尿病
糖尿病の予防法はバランスよく「食べ」、「動き」、「くつろぐ」ことですが、3番目のバランスよく「くつろぐ」ことは、過度のストレスを受けないことです。平成8年度の健康づくりに関する実態調査では、1ヶ月間にストレスを感じた人の割合は54.6%にも達し、また、睡眠によって休養が十分に取れていない人も23.1%との調査結果がでています。ストレスは心の病だけでなく、糖尿病発病や症状の進行の大きな原因ともなっています。
 ストレスと高血圧の関係

ストレス・交感神経刺激による血糖上昇機序

生体にストレスが加わると視床下部の交感神経中枢が刺激され、それにより膵臓のα細胞からのグルカゴンの分泌を促進し、また、副腎髄質を刺激し、アドレナリンを分泌させます。これらにより、肝臓のグリコーゲン分解が促進されグルコースが血中に放出されます。この結果、血糖が上昇します。さらに、交感神経刺激は、膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌を抑制し、血糖低下作用が抑制されます。もう一つの経路として、下垂体より副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、副腎皮質よりグルココルチコイドが分泌されます。これは、肝臓のグリコーゲンの分解を促進し、血中にグルコースが放出されます。さらに、グルコースの主たる利用細胞である筋肉のグルコースの利用を抑制し、血中にグルコースが余る状態となり、血糖は上昇します。
慢性的なストレスを受けていると、常に血糖値が高い状態になり、その結果、膵臓の細胞の障害がおこり、糖尿病の発症や糖尿病が悪化します。

ストレスをためないために

ストレスをためないためには、毎日毎日の心の持ち方、休養の取り方がなによりも大切です。そのために・・・

●1日に1度は心から楽しめる時間を持つ
●いやなこと、無理なことは、NOと言える勇気を持つ
●明日のことは、明日考えよう


この3大原則で、自分をのんびり解放する習慣をつければ、ストレスコントロールも難しくないはずです。



ストレス・副腎皮質刺激ホルモンによる
血糖上昇機序